私がまだ駆け出しの精神科医だったころ、先輩から抗不安薬が開発されたときの逸話を思い出した。
抗不安薬というのは強い不安を和らげる薬だ。
この薬の開発を聞いたある人が「これで人は不安から解放される」と言ったという。
それに対し別の人は「そのようなことは起きない」と言った。

  不安は私たちが安全に生きていくために必要なこころの働きだから。
不安から解放されるというのはよいことばかりではない。
不安を力に変えていく知恵が私たちには必要なのだ、と。
AIにしても薬にしても、自分らしさを意識して使いこなすことが大事になる。
(  日経  こころの健康学 より )