ある時、私は吉田さんを劇団の忘年会に誘った。会社の仕事もあることだから。
呉は忙しいでしょう、ムリをして利賀村まで来てくれなくていいですよ、と言った。

   それに対して吉田さんはこう言ったのである。
”もちろん行きます、私は淳劇団員ですから”。

   吉田さんは私に、一休禅師の作といわれる和歌。
”分け登る麓の道は多けれど同じ高嶺の月を見るかな”を思い出させた。

   私の勝手な感慨だが、それぞれ違った人生の道を歩きながらも。
同じ月を一瞬、見たような気分にさせてくれた人である。

   ( 日経  私の履歴書 より 鈴木忠志  演出家 )