その稲盛さんが新卒で入社した会社はスト続きで給料は遅配。
嫌気がさした稲盛さんは自衛隊に転職しようとしますが、実兄の反対を受け、そのまま会社に止まりました。
鬱々とした日が続きました。会社から寮への帰り道、「故郷」を歌うと思わず涙がこぼれたといいます。

   こぼれた涙を拭って、こんな生活をしていても仕方がない、と稲盛さんは思い直します。
自分は素晴らしい会社に勤めているのだ、素晴らしい仕事をしているのだ、と思うことにしたのです。
無理矢理そう思い込み、仕事に励みました。

 すると不思議なもので、あれほど嫌だった会社が好きになり、仕事が面白くなってくるではありませんか。通勤の時間が惜しくなり、布団や鍋釜を工場に持ち込み、寝泊まりして仕事に打ち込むようになります。
仕事が楽しくてならなくなったのです。そのうちに一つの部署のリーダーを任され。
赤字続きの会社で唯一黒字を出す部門にまで成長させました。

   新卒社員の3割が3年以内に離職すると言われて久しいのですが。
稲盛さんは当時のご自身の体験を踏まえて、こう言います。

   「いまの若い人たちの中に、自分が望んでいる道を選ぶことができなかった人がいたとしても。
いまある目の前の仕事に脇目も振らず、全身全霊を懸けることによって。
必ずや新しい世界が展開していくことを理解してほしいですね。

   ですから、不平不満を漏らさず、いま自分がやらなければならない仕事に。
一所懸命打ち込んでいただきたい。
それが人生を輝かしいものにしていく唯一の方法と言っても過言ではありません」

       (  致知出版社 より   )