生まれつきの全盲で「景色が見えない代わりに音の世界を楽しんでほしい」との両親の意向もあり。
6歳からピアノを習い始めた。

  演奏の面白さは感じていたが、鍵盤の並びや点字の楽譜を指先で覚えるのは難しく。
楽曲の習得に苦労した。

  「思いを歌にしたら」と知人に勧められ、小学4年でオリジナル曲を歌った。
周囲から褒められたのがうれしく、歌唱表現に関心を持った。

  19歳で本格的に声楽を学ぶようになると、全身で音を響かせる感覚に「生きている実感を覚えた」。
盲学生の全国コンクールで優勝し、プロの道を志した。

  自らの境遇に悩みを深めた時期もあった。
音楽大学時代に同級生から「見たことのない風景を歌で表現するのは大変だね」と言われ、ふさぎ込んだ。

  事情を察した恩師が「大切なのは心で感じること。
音楽は形のないものだから自由に歌っていい」との助言で心を持ち直した。

    ( 日経  全盲声楽家・世界パラ陸上・開会式で国歌 より )